世界一(日本一)長い小説の話【絶筆】
今週のお題「読書の秋」
ということで、私の人生で一番尊い読書経験とも言える、学生時代の話をします。
大学生の4年間、常に通学の友だった小説。
「グイン・サーガ」栗本薫 著
世界一長い小説(非公式)。
130巻にて絶筆。
世界一長い小説(非公式)というのは、ギネス認定されなかったために私が勝手に呼んでいるものです。
3,000万字を軽く超える長さですが(ギネスブックに載っているプルーストの「失われた時を求めて」(一人の著者による世界最長の小説)はおおよそ961万字)、1冊にまとまっていないことを理由に認めらなかったという…。
当時、自宅から大学まで通学にかかる時間は片道2時間半。往復で5時間。今だったらパズドラとかモンストとか、いわゆるソシャゲ的なものに入れ込んで時間を費やしていたかもしれませんが、当時はmixi(懐かしや…)で日記を書くのが関の山。もちろんガラケー。
どうしたものかと思案し、せっかくなので本を読もうと思ったものの、私は本を読むのが早い。文庫本の小説なんてものによっては行きの電車で読み終えてしまう。
1日5時間×週5×4年間=4,900時間(乱暴な計算です)
この時間を消化できる量の本を読もうにも、そんなにお金があるわけでもなし、頻繁に書店に通う時間もなし(Amazonは今ほど普及していなかった)。そこで思い出したのが、高校の友人が教えてくれた「グイン・サーガ」でした。
私が高校生の時点で既に80巻くらいまで出ていたんじゃないかな?それなら古本があるはず…節約しつつたくさんの本を読める予感。
「めっちゃ長い」という言葉を頼りに本を探し当て、加藤直之さんの表紙絵(↑参照)のインパクトに若干たじろぎつつも手に取った1巻の1行目で、見事にグインの世界に引き込まれました。
それは-<異形>であった。
この書き出し。
何が起こるんだろうというワクワク感。
長篇すぎてあらすじをまとめるのが難しいのですが(だって外伝をあわせて150冊書いてもまだ終わらない物語だもの)、辺境の森で一人目を覚ました戦士グインが、戦乱から逃げる双子の王女王子と出会い、囚われた砦で出会った傭兵とともに4人で窮地を切り抜けるところから、人間界、魔界、そして星々を巻き込んだ壮大な物語が始まる-名前以外の記憶を一切失った豹頭の戦士グインとは何者なのか?覇を競う国々の思惑、暗躍する魔の者たち…複雑に絡み合う運命の糸が織りなす大河ロマン-というところ。
1巻はわりとテンポよく事件が起き、主要人物が登場して話が展開していく。その勢いに乗せられて、続きが気になって…。
私が生まれるより前に始まった物語に、大学生の4年間であらかた追いつき、絶筆するまで社会人になっても読み続けました。
時には5冊まとめて買い、通学時間を待てずに家で朝まで読み続けたことも…。
なんといってもグインサーガの魅力は、たくさんの登場人物たちと細やかな情景描写。
主人公はグインだけれど、ほとんど群像劇と言っていい。滔々と流れる時の縦糸に、たくさんの登場人物たちがそれぞれの色彩を放ちながら織り上げる、壮大なるタペストリー。それがグインサーガという物語。
作中でも、運命神ヤーンが織りなすタペストリーみたいな表現がよく出てきます(クトゥルフ神話とか、色々な神話を世界観のモチーフにしているようです)。
描写が細かすぎて冗長という批評もありますが、出来るだけ長い時間「もつ」本を求めていた私のニーズにはマッチしていました。言葉の選び方も情緒があって美しかった。
花や草木、空に海。身に纏う衣裳の質感。訪れる街の風土。国ごとに変わる食事風景。それらの色や匂い、手触りを想像しながら読むのは本当に楽しかった。
映像作品と違って「想像で補いながら読む」という、文字だからこそ与えられる読み手の「自由さ」という、読書の醍醐味を堪能できる小説です。
(ちなみにアニメ化もしている。観てないのでクオリティは保証できません…)
ここから先はだいぶマニアックになります…。
登場人物はとにかく多い…好きなキャラクターも嫌いなキャラクターもたくさんいますが皆魅力的。旅の途中で立ち寄った宿屋の倅、みたいな端役でさえも生き生きと描かれていて、ほんの数ページの登場人物なのにすごく印象に残っていたりする。
長い物語なので、1巻で出てきたあの人とこの人の運命がここで交差するのか!みたいなサプライズもあります。
私の推しキャラクターは、ヴァレリウス、ヨナ、マリウス、スカール、ハゾス、オクタヴィアかな…。グインとリンダはもちろん好き。
見た目も性格もバラバラですが、心の深い所に誠があるキャラクターが好みらしい。
一番人気?のナリスを挙げなかったけれど、星の葬送を10回以上読み返すくらいには好きです。
イシュトヴァーンは…苦手(グインサーガを教えてくれた友人はイシュト大好きらしい)。
長い長いグインサーガをじっくり読んできましたが、イシュトヴァーンメインの時期に1巻丸々(買ったけど)読み飛ばしたことがあります。嫌いすぎて…。それでも次の巻以降まったく問題なく読めたのはさすが長編というところでしょうか。
メインで唯一上に名前が挙がらなかったレムスは(王なのに)私の中ではかなり希薄な存在です…(ごめん)。
なんと130巻セットも出ている。
グインオフ会とかあったら3日は語り続けられそう。好きな本の話をするのは楽しいですよね。
グインサーガ。栗本薫さんが亡くなられて絶筆となりましたが、お弟子さんが書き継いでいらっしゃいます。栗本薫さんは長いこと闘病しながらグインサーガを書いてらっしゃいましたが、その中でご本人が自分の亡き後もグインの世界が続くことを願う旨をあとがきに遺していました。
私はまだ、131巻以降を読んでいません。どうしようか迷っていて、読む勇気を出すのを先延ばしにしているというのが正直なところ。お弟子さんとはいえ他の方が書くグインの物語を見たいような、怖いような…。でも、いずれ読むと思います。
久しぶりに思い出してこの文章を書いていたら、また彼らに会いたくなってきました。
このブログの通常テーマに寄せるならば、次のICD交換入院の時が読み時かな?