面白かった本「障害者の経済学」
障害者について取り上げた本はそれなりの数ありますが、最近読んで面白かったのはこちらの一冊です。
『新版 障害者の経済学』 著:中島隆信
内容が興味深かったこともありますが、とても読みやすい本でした。
「経済学」なので障害者にまつわる様々な数字を絡めながら話が進んでいくのですが、例えばややこしい雇用率の計算式も理解しやすく紐解いてくれているので、厚労省のガイドを読むよりよほどわかりやすいです。
当事者、関係者、一般の方にもたくさん読んでほしいなと思ったので、たまにはしっかりレビューっぽい記事を書いてみます。
著者について
著者の中島隆信氏は、大学教授。ご専門は応用経済学(著者紹介より)。「障害者の経済学」以外にも「高校野球の経済学」「お寺の経済学」など、ちょっと面白い切口での経済学の著作があるようです。
ご自身のお子さんが脳性麻痺による身体・知的障害をお持ちであることもあり、当事者の傍で様々なことを見てきた方でもあります。
「はしがき」の一節。
私は憤慨した。「本を書いてやる!」と思った。だが、そのとき私のなかで別の声がした。「それは経済学者のやるべき仕事なのか?」
既に障害者差別を禁ずる法律が定められ、障害者が社会で暮らすためのインフラが整っていたアメリカでお子さんとしばらく生活したのち、日本に帰国して目の当たりにしたギャップ。
それが本を書く最初の動機となるものの、「おかしい!」と叫んでもきっと本当に届いてほしい人には伝わらない…と冷静になって一度はこらえたそうです。
そして時は流れ…
障害者とその周囲の環境を客観的に分析している自分に気づいた。当事者意識から脱却し、精神的に吹っ切れたのだ。
心境やご自身の周りの環境も変化したことで、改めて専門の経済学の視点から障害者を取り巻く現状と課題について紐解いたのが、最初に出版した『障害者の経済学』。そして、10年の時を経て変化した社会環境を反映して出版されたのが、この『新版 障害者の経済学』です。
この「はしがき」の時点で、私、この人好きだなぁと思いました。経済学の本で、出だしから「憤慨した!」だなんて、ユニークなお人柄なんだろうなと親しみが湧きました。この人の目線で見た世界を、私も眺めてみたいと思いました。
おすすめポイント:「経済学」の視点
実際に本を読んでいただきたいので詳しい内容は伏せますが、この本をおすすめしたいと思った理由は、「経済学」が障害者を取りまく問題へのアプローチ方法としてとても適していると感じたからです。
本の中で、著者はまず障害者を扱った書籍を4つに分類します。
- 自伝タイプ
- 制度論タイプ
- 観念論タイプ
- 意外性タイプ
これらはいずれも、専門家や業界人にしか読まれない専門書のようなタイプか、読んで「へぇ〜」で終わり、その後の議論に発展しないものだと指摘します。
そして、障害者に関する話題は何かと物事を善悪に分けたがる傾向があるとし、それに対して経済学の視点は「中立」であり、上のどれとも異なっていて、そこに障害者の問題を経済学で考える意味があると説きます。
物事の善悪を決めつけず、特定の人の利益を考えず、限りある資源をどう配分すれば、最も効率的かを考える。それが経済学。
確かに、障害者の問題は福祉や慈善、弱者保護の観点で語られることが多く(多すぎる)、善悪論に帰結してしまうことが多いように思います。
自分自身が健常者から障害者の立場に変わって、世界を眺めたときに、これでは(善意に頼るのでは)根本的な解決にはならないんじゃないの?と感じていた私にとって、この考え方は新鮮であり、自分の視野が広がった気がしました。
問題の全体を冷静に眺めて、最も効率的な解決方法を考える。そのための視点を与えてくれるのがこの本だと思います。
概要紹介
そんな視点で語られるこの本。
本論では、「障害者って何だろう?」から始まり、障害者のいる家族について、差別・偏見の問題、法律や制度、福祉サービス、教育、そして雇用について…と、様々な切口から障害者の課題が取り上げられます。
最近起きた事件についても(相模原の事件など…)経済学の視点からの考察がなされています。
また、章の間にはコラムが挿入されており、海外の事例なども知ることができます。
文章自体は平易で読みやすく、ボリュームも薄すぎず厚すぎず、気軽に読める量です。
まとめ
魅力を伝えられたかしら…?
久しぶりに読書感想文みたいなものを書いたのでドキドキしていますが、とにかくおすすめの本です。
当事者や関係者はもちろん、障害者に触れ合う機会が無い方(気づいていないだけで身近にはきっといると思うけどね…)にも読んで欲しいです。
この本を読んで、何か、考えるきっかけになれば…新しい視点を得られれば…そう願っています。
kindle版もあるので、通勤通学の合間にさくっと読めますよー!